2006年7月17日ジャワ島南西沖の地震


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2006年7月17日ジャワ島南西沖地震の震源メカニズム再解析

防災科学技術研究所 国際地震観測管理室
2006/10/02(月)


■ 概要

2006年7月17日(月)8時19分頃(世界標準時)、インドネシアのジャワ島南西沖で発生した地震の震源メカニズムについて再解析を行ないました。 今回は、解析に用いるパラメータおよび使用する波形データについて再検討を行ないました。

解析の結果、震源位置は 9.78°S、107.26°E の深さ約10kmに、マグニチュード(Mw)は7. 6 (概算値)と推定されました。 得られた結果の震源位置とメカニズムは、前回の波形全体を用いた解析とほぼ同じものとなりました。 マグニチュードの推定結果が前回と大きく異なった理由については後述します。


■ 震源メカニズム解析

データ:解析に用いたのは、Realtime-JISNETのBJI、LEM、KSI観測点の広帯域地震計(CMG-3T EBB:0.02〜360秒)の3成分波形です。なおBJIのEW成分は地震計の不具合により取得できておりません。

手法:震源メカニズムとして点震源の断層すべり(ダブルカップル)を仮定します。更に走向・傾斜・すべり角を固定し、モーメント時間関数を周波数領域での波形インバージョンによって求めます。このインバージョンについて、走向・傾斜・すべり角および震源座標のグリッドサーチを行い、最小残差を見つけることにより震源とメカニズムを決定します。また、Realtime-JISNETの波形では、この規模の地震の場合は 200秒程度の周期まで十分な精度を持って記録されていると判断したので、今回の解析では、長周期帯(50-200s)を使用してインバージョンを行いました。

結果:解析の結果、震源の位置は 9.78°S、107.26°E の深さ約10kmに推定されました。図1に震源のグリッドサーチにおける残差の分布を示しました。

図2には得られた震源メカニズム、モーメント時間関数、そして波形のフィットを示しました。どの観測点においても、観測波形の初動部分にみられる主要な相を良く説明出来ていることが分かります。

地図
図1 :震源のグリッドサーチにおける残差のコンター。+印は想定した震源位置(東西および南北に50km間隔)。震央をで記す。

波形
図2 : 得られた震源メカニズム(左上)、モーメント時間関数(右上)、観測波形(黒)と合成波形(赤)の比較(下)。


■ マグニチュードと継続時間の推定

震源におけるモーメント時間関数は、有限の継続時間を持ったステップ関数で近似されると考えられます。 一方、得られたモーメント時間関数は、50-200秒の帯域の波形から復元されたものであるため、最終的なモーメント解放量などの成分は直接復元することが出来ません。 そこで、ステップ関数の立上り時間と最終的なモーメント解放量を仮定し、これに解析に使用したのと同じ 50-200秒の帯域を通すフィルタをかけ(図3桃色線)、解析から得られたモーメント時間関数(図3青色線)を良く説明するパラメータを試行錯誤により推定しました。 その結果、立上り時間が約150秒、モーメント解放量が約 3×1020Nm (Mw=7.58)の場合(図3赤線)に解析結果を良く説明できることが分かりました。 これらのパラメータは、他の研究者らによって得られた値と調和的な結果となりました。

震源関数
図3 : 得られたモーメント時間関数(青)、震源でのモーメント関数(赤;縦軸は右の軸を参照)、そして震源でのモーメント関数に50-200秒のフィルタをかけた関数(桃色)。


■ 結果についての解釈

今回の地震は破壊継続時間が150秒と長かったために、より長周期の成分を使わないとモーメント関数やマグニチュードについて正確に推定出来なかったと考えられます。

マグニチュードが7.6の地震の平均的な破壊継続時間は数十秒であり(菊池、2003)、破壊継続時間が150秒というのは、マグニチュードが7.6の地震としては非常に長かったことになります。 今回の地震の震源断層の長さを、他の研究者らによる有限震源解析の結果から得られた約200〜300kmだとすると、菊池(2003)、p133 の津波地震の条件を満たすと考えられます。 似た例としては、1992年のニカラグア津波地震が挙げられます(Mw=7.6、破壊継続時間〜100秒)。

参考文献:菊池、リアルタイム地震学、東京大学出版会、2003

防災科学技術研究所 国際地震観測管理室